大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成4年(ワ)19804号 判決

主文

一  被告らは、連帯して、原告に対し、金六七万〇四三〇円及び内金六一万〇四三〇円に対する平成二年一一月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  控訴費用は、これを五分し、その一を原告の、その余を被告らの負担とする。

四  この判決は、第一、三項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

請求らは、連帯して、原告に対し、金九一万〇四三〇円及び内金八一万〇四三〇円に対する平成二年一一月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  争いのない事実及び証拠によつて容易に認定しうる事実

1  本件事故の発生

(一) 日時 平成二年一一月五日午後一〇時四五分ころ

(二) 場所 東京都渋谷区道玄坂一丁目一番先路上(以下「本件道路」という。)

(三) 態様 被告村田義和(以下「被告村田」という。)は乗客を乗せ、普通乗用車自動車(登録番号「練馬五五く一六五」、以下「被告車」という。)を運転して本件道路付近を進行してきたところ、右乗客の指示に従いUターンして反対車線に入り、訴外ゲルト・シエーフアー(以下「シエーフアー」という。)の運転する原告所有(甲一一)の普通乗用自動車(登録番号「品川三三み一六一四」、以下「原告車」という。)に、被告車を衝突させた。

二  争点

1  責任

(一) 原告の主張

本件道路付近の首都高速道路の橋桁部分は通行禁止場所であるにもかかわらず、被告村田は、これを無視し、かつUターンするに際しては、周囲の安全を十分に確認すべき注意義務があるにもかかわらず、これを怠り、漫然進行した過失により、本件事故を発生させたのであるから民法七〇九条に基づき、本件事故により原告に生じた損害を賠償すべき義務がある。

被告練馬交通株式會社は、使用者として、被告村田をタクシー乗務員としての業務に従事させていたものであるから、民法七一五条に基づき、本件事故により原告に生じた損害を賠償すべき義務がある。

(二) 被告らの主張

被告村田は、本件道路付近を進行してきてUターンを開始し、反対車線に入つた際、後方から走行してくる原告車を発見したので、そこで被告車を停止させていたところ、原告車が被告車に接触したもので、本件事故は、もつぱらシエーフアーの前方不注視及びスピードの出し過ぎによつて惹き起こされたものであるから、被告らには責任はない。

2  損害

原告は、〈1〉車両修理費用、〈2〉評価損、〈3〉弁護士費用を請求しており、被告らは、その相当性ないし額を争う。

被告らは、右のうち、修理費用について、原告車の右側ドアの交換は不要であると主張する。

第三争点に対する判断

一  本件事故態様

1  証拠(甲四、五の一、五の二、八ないし一〇、乙四の一、四の二、証人吉岡茂喜の証言)によれば、以下の事実が認められる。

(一) 本件道路は、片側四車線の幹線道路で、その上を首都高速道路が通つているため、両側とも四車線の中央部分に橋桁があり、その橋桁部分は通行禁止場所となつている。本件事故現場は、交差点に入る地点である。

(二) シエーフアーは、原告車を運転して本件道路を青山方面から三軒茶屋方面に向けて進行し、本件事故現場付近にさしかかつたところ、前方の交差点の信号が黄色から赤色に変わるところであつたので、減速・停止した直後、被告車と衝突した。

その結果、原告車は右フロントフエンダー及び右ドア部分を、被告車はフロントバンパー、左フエンダー部分を損傷した。

2  ところで、被告らは、被告村田はUターン開始後、原告車が進行してくるのに気付いたため、原告車の走行車線に入つた際、被告車を停止させた旨主張する。しかし、原告車の損傷部位が右のとおり、右フロントフエンダー、右ドア部分と狭い範囲に止まり、その前部には大きな損傷がないのに対し、被告車の損傷部位がフロントバンパー、左フエンダーと広範にわたつていることからすれば、原告車が停止中の被告車に衝突したというのはいかにも不自然で到底考えられない(原告車が停止中の被告車に衝突したとすれば、原告車の前部がまず損傷し、また損傷部位も広範にわたるのが自然である。)。したがつて、被告村田の事故報告(乙四の二)の事故態様に関する記載は信用できない。一方、シエーフアーの事故報告(甲九)は、双方車両の損傷状況から見ても合理的であり、なんら不自然な点はない。

3  以上によれば、結局本件事故は、交差点手前で信号待ちをしていた原告車に反対車線からUターンしてきた被告車が衝突して発生したものと認められるから、被告村田にUターンする際の安全確認不十分の過失があることは明らかであり、他方シエーフアーには、信号待ちのため停車していたに過ぎないから何らの落ち度もないというべきである。

したがつて、被告村田は、民法七〇九条に基づき、被告練馬交通株式會社は、被告村田の使用者であるから民法七一五条に基づき、それぞれ原告に生じた損害を賠償する責任がある。

二  損害

1  車両修理費用 六一万〇四三〇円

(請求 同額)

甲二、三、証人吉岡茂喜及び弁論の全趣旨によれば、本件事故により、原告車は右フロントフエンダー、右ドア部分等が損傷したため、原告は、右ドアを交換する等の修理をし、右修理に右金額を要することが認められる。

ところで、被告は、右ドアの交換は不要であり、修理費用は不相当であると主張し、これに沿う証拠(乙一ないし三、証人加納邦男の証言)もあるけれども、右証拠は、いずれも本件事故当時の原告車の写真からの推定にすぎないから、直ちに信用することはできず、他方、実際に原告車を修理した証人吉岡茂喜の証言によれば、原告車のドアはアルミ製で、本件事故によつてへこんだ部分は、そのアルミが伸びきつて破れていた上、ドア内部には補強材としてパイプのフレームが入つていたため、もはや板金修理は不可能であり、ドア交換はやむを得なかつたこと、これに伴いドア部分全体について塗装が必要となつたことなどが認められること、その他の修理項目についても、原告車の損傷状況からみて特段不相当な点はないことなどから、原告車の修理費用として右金額は相当であるというべきである。

なお、証人加納邦男は、原告車の右ドア部分のへこみは、本件事故によるものとはいえない旨証言するけれども、同証人の証言は、被告車の左フエンダー部分が原告車の右ドア部分に衝突したとの認識を前提とするものであるところ、被告車はフロントバンパーも損傷していること、アルミ製のドアは鉄製のドアに比べ強度が劣ること(証人吉岡茂喜の証言)からすると、被告車の左フエンダー部分が原告車の右ドアに衝突したとは直ちにいえないから、採用できない。

2  評価損 認められない

(請求 二〇万円)

原告車は、購入後三年近くを経て本件事故に遭い、その後一年以上もたつてから売却されたことが認められ(甲一一、一二)、本件事故前に転売予定があつたことや、本件事故によつて機能的な欠陥が生じたこと、本件事故後の修理によつてもなお、外観上の欠陥が残存したこと等を示す証拠はないことなどに照らせば、本件事故により、原告車に評価損が生じたものと認めることはできない。

二  弁護士費用 六万〇〇〇〇円

本件訴訟の経緯に照らせば、右金額が相当である。

三  合計 六七万〇四三〇円

四  以上の次第で、原告の本訴請求は、被告らに対し、右三記載の金額及び内金六一万〇四三〇円に対する不法行為の日である平成二年一一月五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条一項本文を仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 松井千鶴子)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例